設計事務所を自ら設立し、住宅・商業施設などの案件を担当する傍ら、大学の非常勤講師も務めていた加藤さん。高齢者施設の発展性に注目し、「パターン・ランゲージ」のプロジェクトを進めています。
建築・不動産・購買2012年入社
スペースデザイン部加藤 イオ
スペースデザイン部の主な仕事のひとつは、新規開設のための有料老人ホームの設計です。敷地を訪れて周辺環境を確認するところから、建物配置や平面計画を行い、生活・運営に関わる動線を確かめながら建物規模を定め、外観や内装を含めて、どの様な空間を提案できるのか考えます。
さらに、どのようなサービスを実現できるかを他部署メンバーと話し合いながら企画し、設計や工事に反映させていきます。当然、建設現場での打ち合せにも参加しますので、社内外を問わず、非常に多くの人と関わりながら新規ホームの開設に携わります。
そして、そのような設計者的な「つくる」活動だけでなく、「拡げる」活動も同時に行っています。「ベネッセメソッド」のひとつである「パターン・ランゲージ」の活用がそれにあたります。
新規ホームにはもちろん、既存ホームのリニューアルにも「パターン・ランゲージ」を活用しています。時には、現場のスタッフとワークショップを行い、自分たちのホームの魅力を改めて考え、再発掘してもらうなどの活動にも取り組んでいます。
「パターン・ランゲージ」とは、1970年代に建築家クリストファー・アレグザンダー氏が提唱した理論で、歴史ある美しい町並みなどが持つ「名もなき質」という暗黙知の言語化を行うことで、住民による街づくりの支援を目的とした手法です。
そのフレームワークを用いて、ベネッセの有料老人ホームにある空間や場所、その場の雰囲気なども含め、居心地いい「環境」を言語化したものがこちらの冊子、『その方らしさに寄りそった環境づくりの手掛かり』です。ベネッセの20年にわたる介護事業のノウハウの集合といえます。
このプロジェクトは、当初は本部メンバーが中心でしたが、なかなかポイントが見えず、手探りで行った各ホームへのアンケートが、発想の転換点となりました。集まった603個の成功事例には、建物や立地環境に依ることよりも、環境の活かし方次第では他のホームでも再現できることが多かったのです。
はじまりはベネッセがつくってきた建物・設備に関する「ハード面」での成功事例の言語化が目的でしたが、アンケート結果から、サービスの実態、つまりは「その方らしさに、深く寄りそう。」を伴った環境づくりの言語化に変化していきました。その点、プロジェクトを進めながら面白さを感じましたね。
もともと、設計事務所で経験を積んだあと、自ら設計事務所を立ち上げ、設計活動の傍ら大学などで教鞭をとることに憧れていました。
しかし、周りを見渡すと、同世代の同じようなスタイルの設計者があまりにも多いことに危機感を感じ、「自分のキャリアは、他のどんな業界や会社で活かせるだろう」と考えたのが転職のきっかけです。
介護業界を選んだ理由は、建築業界の中で、高齢者施設の設計は、未開拓な領域だと感じたからです。「建築物として有名である」とか、「著名な建築家が手掛けている」というイメージが薄く、設計領域として発展の余地があるジャンルだと思いましたし、発展していくその場に立ち会いたいと思っていました。
また、介護業界の中でもベネッセスタイルケアを選んだ理由は、サービスのベースにご入居者様目線があるからです。
面接の時、「ベネッセでは、介護事業をスタートしたときから、入居される方が今までの暮らしを継続できるように、住宅街など人が暮らしている場所にホームをつくる」という話を聞き、納得したことを覚えています。
今回の「パターン・ランゲージ」プロジェクトへのチャレンジも、設計者目線では気付かない居心地いい環境づくりの視点を得られたことで、自分の仕事にも拡がりを感じています。今後は、今まで会社の中だけで閉じていたコツを「ベネッセメソッド」として、世の中に拡げていきたいと思っています。